姫神の音楽

遠野



柳田國男『遠野物語』を題材にしたアルバム。
青々とした美しい自然、おっかない妖怪たち、謎めいた遠野の自然を
シンセサイザーで昔話のように唄って聞かせた…そんな印象。
制作にあたって星吉昭は岩手県遠野郷に長期滞在し曲作りをしたという。

フュージョン・ポップ的な印象だった「奥の細道」に比べると
本作はより土着的な日本に迫った、という感じだろうか。
いかにも日本昔話的なサウンドとなっている。

ジャケットは手前に藁葺き建物のある地系が浮いており
その上に渦巻く宇宙のような空間から閃光が放たれて
雲海、山々を貫いているという非常に大胆なもの。
日本の風土とサイケデリックを融合させた
当時のジャケットデザインには本当驚かされる。

1.春風祭 -遠野物語への旅-

祭囃子を思わせる鼓の音、民謡的な旋律の組み合わせが
原・日本、遠野の奥深い世界を表現している。
遠野物語への導入に相応しい一曲。
北国の長くて厳しい冬が終わり、待ちわびた春を喜び祝う…
そんな賑やかさがあるように感じる。
狐や狸、山の動物たち、そして村の子供たちがみな心躍らせる。

2.水光る

蛙や蝉の音色に、光る水の青く透き通った旋律が心地よい一曲。
中盤から静かに加わる鼓の音も効果的で
最後に一気に盛り上がっていくパートは絶品である。
北国のあおあおとした自然や風土を感じられる。

3.峠

広大な峠を表現した神秘的で美しい曲。
透明感のあるシンセ音は幽玄という言葉に相応しく
まるで水墨画の中にいるようだ。
東北東のシルクロードを渡る遠野の人々は
峠で何を想っていたのだろうか…。

4.サムト

『遠野物語』にある寒戸(サムト)の婆を音物語にした一曲。
(サムトとは黄昏時に行方知れずとなった娘が三十年余立ったある嵐の夜
老いぼれた姿で突然帰ってきて、また何処かへ消えてしまったという話)
おどろおどろしくもどこか哀しい曲で
風の音、幽霊の泣き声ような不気味な音が一層怖さを引き立てている。

5.早池峰 (ハヤチネ)

曲名の由来は遠野の北にそびえる早池峰山。
静寂の中に妖気を帯びたような長い前奏の後
山を駆け抜ける風の如く和太鼓風パーカッションが激しく鳴り響く。

6.綾織 (あやおり)

物悲しげな三拍子のゆったりとした曲。
『遠野物語拾遺』に、惚助に羽衣を盗まれた六角牛山の天女があり
殿様のために織った「曼陀羅織り」は綾織村の光明時に
納められているという。
冊子の詩を見る限りこの話が元になっていると思われる。
天女の悲しみを表しているように感じる。

7.河童淵 (かっぱぶち)

曲名の由来は恐らく遠野にある同名の淵。
姫神全体としても異色な、とてもひょうきんな感じのするテクノポップ。
楽しげなカッパまつりの情景が浮かぶ。
みんなで相撲大会でも開くらしいのだが…
旋律は演歌のような印象的なこぶしが回りまくりで
中盤にぽたぽたと滴るような音がいかにもカッパらしい。

8.赤い櫛

音程を意図的に外したような、気の抜けた独特な旋律が印象的。
対してサビの部分はノリの良い軽快なメロディ。
最後は唐突に三拍子でゆったり…と摩訶不思議でクセになる一曲。
赤い櫛の回る水面の底にある大木が、朝鐘の音色と共に
空へと飛んでいき、そこには見たこともない
美しい女がまたがっていた…という話が元になっている。

9.水車まわれ

遠野への浪漫や熱い心意義を感じる、締めに相応しい一曲。
人知れず秘境でゆっくりと、威勢よくまわりつづける木造水車が浮かぶ。
そこには忘れられたエゾ・エミシの魂が宿っているかのようだ。

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